スペイン紀行録⑪
ファイヤーブラザーズとも今日でお別れをし、お昼のバスで世界の果てことFinisterreまで来ました。 荷物は降ろさず、ラスト3kmの上り坂をあがると広がる一面の大海。ここが終着かという気持ちと、バスで来たぶんのまだ充実してない気持ちとで、すごく複雑な気分でした。それでも(そのせいか)崖の斜面を下って、できる限り最果てのポイントまで行きました。来る前にも道中でも聞いた「フィニステーラで着ているものを燃やすと生まれ変わることができる」という話を実行するために。 焼いたのは旅でボロボロになったものたち。靴、靴下、カミーノブレスレット、それから手ぬぐい。ブレスレットは、ほんとは金属の部分だけ焼け残るやろから新しく付け替えるつもりで。手ぬぐいはお気に入りやったけど破れたのと、坂を上ってる途中でこれも焼くべきに思えて。 焼いてるとき、なんか何も強い気持ちは浮かばなかった。サンティアゴを出る前に、コンポステーラに杖を置いてきた時の方が感謝と名残惜しさが湧いてきた。それがまた何とも言えずむなしく、最後の最後がこれか?って思ったていた。ブレスレットの金属もなぜか見つからず、座ってしばらく眺め、思いに耽ってから崖を戻りはじめた。 するとふいに、もう一度後ろへ引っ張られるように海を見た。歌が歌いたくなった。僕の中の旅のテーマ、カミーノの道で毎日歌っていた、吉井和哉の「Goodbye lonely」。涙が出てきた。どんどん、どんどん。大学一年の秋、友達の葬式の時も同じやった。出口で振り返って、そこでボロボロ泣いたんやった。 歌が終わってからは、その場に座り込んで泣いた。岩場の真ん中。少し離れたところに人はいたけどどうでもいい。声をあげて、思い切り泣いた。自分の心の中を全部搾り出したかった。辛かったこと。昔のこと。だめにしてしまった恋愛のこと。色々。もう何も気にしないように。嫌なものを全部、吐き出してしまいたかった。 しばらく泣いてからは、友達のことが浮かんできた。今日、マルタが朝の道で話してくれた。「"I can do it!"これが私の哲学。何だって、あなたは頑張ればきっとできる!どうか覚えていてね、タカシ。」そんな風に。そしてきっとこれは、今までのみんなも言ってくれるんじゃないか、むしろ言ってくれてるんじゃないかと、そんな風に思えてきた。もちろん、家族も。そして、ほかにもたくさんの人達が浮かんだ。嬉しさと感謝が込み上げて、また涙があふれた。 大事な手ぬぐいも、34日共に歩いたブレスレットも焼いてしまった。もう戻っては来ない。けれど、それが焼くということなんやろう。当たり前やけど。 手ぬぐいは、新しく買おう。ブレスレットは、昨日ウォルターが願いの紐を結んでくれた。お守りだってくれた。問題はない。 「あなたは赤!赤はあなたの色。」マルタはそう言ってくれた。昨日の帰り道、クリスとルーカスにも挑戦(人のこと怖いけど、友達を信じて一緒に過ごしてみる)のことを打ち明けたけど、二人も「受け入れるも何も、当たり前じゃん!大丈夫さブラザー!ありがとう。」と言ってくれた。一人、一人、また大事な人が増えていく。そして彼らが言ってくれることを、今の僕は信じられる。たくさんの友達のことも。 不安なっても大丈夫。"I can do it!"それを僕はみんなの声で聞いた。頭の中で。世界の果ての真ん中、岩場の土に座って。